若旦那様の憂鬱
俺も寄っておくかと柊生もトイレに入って出ると、
花が泣きそうな顔で待っていた…。

「ごめん、ついでに俺も入っておこうかと思って。そんな顔しないで。」

フッと笑いながら頬をなぜる。

「この廊下、暗くて怖いの。居なくならないで…。」

不安そうに腕に抱きついてくる花も可愛いいが…
だからって、そんなに張り付かないでくれと柊生は思い、煩悩と戦いながら席に戻る。

映画はアメリカのヒーロー物で、アクションあり涙ありの手に汗握る内容だった。

柊生も寝る事なく楽しめたし、何より花が映画を観ながらビックっとしたり、ギュッとしたり、ボロボロ泣くのが可愛くて、これはまた来たいなと思うほどだった。

まだ映画の世界から出てこれない花を横に、照明が明るくなるまで待とうと、柊生は花の世話を焼く。

持ってるハンカチはもう役目を果たさないだろな。と、柊生は自分のハンカチを花に捧げる。

照明が暗くて分からないが、真っ赤な目でこちらを見つめてくる。
ぐすんと鼻を啜りながら、柊生のハンカチで涙を拭く。

怒られるかもと脳裏を掠めるが、堪らずチュッと唇にキスを落とす。

花はビクッと反応するが、特に抵抗しないからもう1度角度を変えてキスをする。

花がふぃっと下を向いてしまうので、柊生は残念に思いながら抱き締める。

辺りが明るくなるまでそっと抱き締めたままでいた。

照明が明るくなり、花がパッと離れる。

真っ赤な目でキッと睨まれるが、柊生はついフッと笑ってしまう。

「人前でキスとかしちゃダメ。」
席を立ちながら、小さな声で咎められる。

「ごめん、つい煩悩に負けた。でも、涙止まっただろ?」

「びっくりしたの。」

ちょっとやり過ぎたかと、柊生は躊躇いながら隣を歩く。

暗い廊下のところで、それでもギュッとしがみついてくるからホッとする。

「お腹空いた?」

柊生がそう聞くと、

「まだ、大丈夫。」
と花が言うから、しばらくぶらぶら歩こうと誘う。
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