若旦那様の憂鬱
「ねぇ。柊君って今欲しいものとか無いの?」
気を取り戻したように花が聞いてくる。
「欲しい物ものか…花しか無いな。」
「そう言う事じゃ無くて…。」
花が冗談だと思ったのかそう言うから、
本気だと真顔で、
「欲しい物は花だけなんだ。」
と告げると、耳まで真っ赤になって、
「お金で買える物にして下さい。」
と言われた。
「特に無いな。」
本当に欲しい物は無い。
柊生は元々物欲はあまり無い方だし、高くても良い物を長く使うタイプだ。
「あっ!ネクタイとかタイピンとかどう?」
ショーウィンドのガラス越しで花が見つけて、提案してくる。
「誕生日でもないのに要らないよ。
それより、花は?服とかアクセサリーとか欲しい物無いのか?」
指輪を買って以来、柊生は自分が買い与えた物で、花を着飾る事に密かな楽しみを見出していた。
「柊君には成人式のお祝いも、指輪も貰ってるからお返しがしたいの!」
花は意外と頑固でなかなか引かない性格なのは、良く知っている。
せめてそんなに高く無い物をと思い、ブランド品じゃ無くていいと言って、店から出ようと柊生は試みる。
「一橋の若旦那様なんだから、それなりの物を身に付けてもらわないと。」
花は、余計張り切って探し始めてしまう。
終いには店員まで巻き込んで、
ああでも無いこうでも無いと、
始まってしまったので止めるに止められなくなって…。
柊生は、なすがままになってしまう。
紺に金の上品なストライプに小さな金の蝶が飛んでいるネクタイを花が気に入る。
「これ、私の振袖の帯とよく似てない?」
そう言って、柊生に合わせながら目を輝かせている。
確かに似てるなと思うけど、そこそこ高いはず…。
柊生は自分の財布を取り出そうと、
そっと内ポケットに手を忍ばせる。
「ダメだよ。私が買うんだからね。
帯締めだって指輪だって相当高買ったはずだよ。」
目敏く手を押さえらたらどうしようも無い。
はぁー、仕方ないな。
また、物で返すしかないと柊生は思い、
抵抗するのを諦めた。