若旦那様の憂鬱
そんな仲睦まじいカップルを、

あれ?っと思って遠めから見ている男が1人。

あれは、昨日見合いした相手…。

一橋花さん…

一緒にいるのは…一橋の若旦那、一橋柊生だ。

前嶋はそう思い、しばらく観察する事にする。

兄妹にしては仲が良過ぎないか?
と疑問に思う。

久しぶりにこれは、と思う人に出会えた。
と、思っていた。

大人げ無くときめいたりもしてしまったのに、そう思ったのは自分だけで…。

彼女が手に入ればどれほど嬉しかったか。

慎重にお見合いと言う形で固めてしまおうと、親まで巻き込んだ。

自慢じゃないが、人よりモテる方だと思う。
女性から言い寄られる事の方が多く、今まで自分から動く事は少なかった。

その俺がどうにかして近付きたいと、珍しく彼女にはそう思ってしまった。

何が良かったのか…。

男慣れしてなくて、擦れてなくて、初々しいところ。
俺の周りにはいないタイプ。
それだけじゃない…

言葉では表現しようがない。

一目惚れとはこういう事かと思うぐらい、どうしようもなく惹かれてしまった。

その彼女が、目の先で兄だと思われる男と楽しそうに買い物をしている。

悔しいのか、羨ましいのか、妬ましいのか…

自分でもよく分からない感情が芽生える。

一橋柊生。
100年以上続く老舗旅館の若旦那。

何度か顔を合わせた事はあるが、交渉相手は旦那様や女将さんが多い為、これまで挨拶程度でしか話した事は無い。

1度何かのフォーラムで、話している姿は見たな。

彼の印象は隙の無い出来た男だ。

容姿もそうだが、にこやかな笑顔と気品のある所作。

気遣いと心配りと立ち振る舞いに、さすが老舗旅館の御曹司だと思わせる、一寸の隙もない男だ。

ただ…本心は何を考えているのか読めない怖さがある男。

花さんはその妹…

向こうから見合いについての断りの連絡があったと言うから、もう綺麗さっぱり忘れるべきなのか…。

声をかけるべきでは無いと思うのだが…。

彼女の微笑む姿を見ると、まだ諦めきれ無い思いが、心の奥底で燻り始める。

前嶋は迷った挙句、一歩先に足を運ぶ。
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