若旦那様の憂鬱
「ありがとう。
…ごめん、部屋に勝手に入って。」

今更だよ…。
花はそう心で悪態をつく。

包帯が取れて手が自由になる。

何重にも貼られていた絆創膏がそっと、
一枚ずつ剥がされる。
「良かった…、傷口ちゃんと塞がってるみたいだ。」

ホッとした声がする。

花は話したいけれど寝たふりをした手前、
話しかけられないもどかしさで一杯になっていた。

優しい力で巻き直された包帯は、
柊生の心のようでドキンとしてしまう。

不意に手が温かな大きな手にそっと包まれている事に気付く。

はぁーはぁーと、息を吹きかけているような気配がして思わずビクッとしてしまう。

「手が冷えてる。
キツく巻きすぎて血の気が引いたせいかもしれない。」

「だ、大丈夫だから…。」

これ以上、握られていると心臓に悪いと、
花は手を引っ張って布団の中に引っ込める。

「…おやすみ。」

ポンポンと布団の上から頭を優しく撫でて、柊生は部屋から出て行った。
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