若旦那様の憂鬱
「こんにちは、花さん。」
お店を出たタイミングを狙い、花を怖がらせないよう前嶋は慎重に声をかける。
振り返る花は、びっくりしたように目を見開く。
やはりまだ胸がときめいてしまうな、と前嶋は思いながら笑顔を向ける。
「すいません…本来なら声をかけるべきでは無いのかも知れませんが…。
こんな所で会えたのも何かの縁だと思いまして。」
「こんにちは…前嶋さん。」
申し訳ない思いがあるのか、花は前嶋に深々頭を下げる。
そこに、2人の間に割って入る男が1人。
「お久しぶりです、前嶋さん。」
爽やかを絵に描いたような笑顔で、
物腰柔らかく、だけど花を隠すように、前嶋の視界を塞ぎ前に立つ…一橋柊生。
「お久しぶりです。妹さんとお買い物ですか?
仲が良いんですね。」
「ええ、僕は着るものには無頓着で、何を選ぶべきか分からないので、お恥ずかしい話ですが、こうして妹に選んでもらっているんです。」
そう柊生が言う。
「私にも妹がいるのですが、大人になるとなかなか兄妹で出かける事は少ないので、羨ましい限りです。」
「いえ、歳の離れた兄妹なので、普通よりは仲が良いのかもしれませんね。」
柊生はにこりと笑う。
分からないな…と前嶋は思う。
この男の心の内は分からない。
「あっ、昨日は妹さんにお付き合いをお願いしたのですが、お断りされてしまって…
未練がましくお声をかけてしまった事、許して下さい。」
柊生越しに花を見て、前嶋は話す。
フルフルと首を横に振り花は俯く。
明らかに、俺から妹を守ってるのは分かる。
ただ、それだけか?
「お話しは聞いています。花は20歳を迎えたばかりで、まだまだ結婚なんて考えも及ばない事でして、申し訳なく思います。
兄としてお詫びをさせて頂きます。」
柊生が頭を下げる。
「いえ、私も突然、お見合いなんかをお願いしてしまったので、びっくりされましたよね。花さんとお話しをする機会がどうしても欲しかったので…。
10も年上の男は、さすがに無かったですよね。こちらこそすいませんでした。」
前嶋もにこやかにそう言って頭を下げる。
「また、仕事の方ではお世話になるかと思いますので、変わらずのお付き合いをと思います。
では、僕達はこれで。」
そう柊生は締めくくり、前嶋の前から花を連れて立ち去って行く。
あの男、まったく隙を見せないが…。
やっぱり何かが引っかかる。
前嶋は違和感を感じる。
彼女に惹かれた手前、男としての感が働く。
ライバル的存在なのではないかと。
…振られてなお声をかけるのは未練がましいな。俺…。
お店を出たタイミングを狙い、花を怖がらせないよう前嶋は慎重に声をかける。
振り返る花は、びっくりしたように目を見開く。
やはりまだ胸がときめいてしまうな、と前嶋は思いながら笑顔を向ける。
「すいません…本来なら声をかけるべきでは無いのかも知れませんが…。
こんな所で会えたのも何かの縁だと思いまして。」
「こんにちは…前嶋さん。」
申し訳ない思いがあるのか、花は前嶋に深々頭を下げる。
そこに、2人の間に割って入る男が1人。
「お久しぶりです、前嶋さん。」
爽やかを絵に描いたような笑顔で、
物腰柔らかく、だけど花を隠すように、前嶋の視界を塞ぎ前に立つ…一橋柊生。
「お久しぶりです。妹さんとお買い物ですか?
仲が良いんですね。」
「ええ、僕は着るものには無頓着で、何を選ぶべきか分からないので、お恥ずかしい話ですが、こうして妹に選んでもらっているんです。」
そう柊生が言う。
「私にも妹がいるのですが、大人になるとなかなか兄妹で出かける事は少ないので、羨ましい限りです。」
「いえ、歳の離れた兄妹なので、普通よりは仲が良いのかもしれませんね。」
柊生はにこりと笑う。
分からないな…と前嶋は思う。
この男の心の内は分からない。
「あっ、昨日は妹さんにお付き合いをお願いしたのですが、お断りされてしまって…
未練がましくお声をかけてしまった事、許して下さい。」
柊生越しに花を見て、前嶋は話す。
フルフルと首を横に振り花は俯く。
明らかに、俺から妹を守ってるのは分かる。
ただ、それだけか?
「お話しは聞いています。花は20歳を迎えたばかりで、まだまだ結婚なんて考えも及ばない事でして、申し訳なく思います。
兄としてお詫びをさせて頂きます。」
柊生が頭を下げる。
「いえ、私も突然、お見合いなんかをお願いしてしまったので、びっくりされましたよね。花さんとお話しをする機会がどうしても欲しかったので…。
10も年上の男は、さすがに無かったですよね。こちらこそすいませんでした。」
前嶋もにこやかにそう言って頭を下げる。
「また、仕事の方ではお世話になるかと思いますので、変わらずのお付き合いをと思います。
では、僕達はこれで。」
そう柊生は締めくくり、前嶋の前から花を連れて立ち去って行く。
あの男、まったく隙を見せないが…。
やっぱり何かが引っかかる。
前嶋は違和感を感じる。
彼女に惹かれた手前、男としての感が働く。
ライバル的存在なのではないかと。
…振られてなお声をかけるのは未練がましいな。俺…。