若旦那様の憂鬱
花は何も言えず、ただ柊生に着いて行く。

昨夜、気まずい気持ちで別れた前嶋にかける言葉も見つからず…柊生に守られるまま何も言えなかった自分に不甲斐無さを感じる。

「柊君、ごめんね、ありがとう。」

兄の振りなんてしたく無かっただろうと、心情を思い計る。

「花が謝る事じゃないだろ。」

柊生は足を止めて花の隣に並ぶと、頭を撫ぜて優しく言う。

「…ごめん。大人気無かったな…。」
そう言って、苦笑いする。

「ううん。私が上手く対応出来なかったせいで、柊君に迷惑かけちゃった。」
花は花で申し訳ないと思う。

「花を守るのは俺の役目だ。気にしなくていい。
俺がイラっとしたのはあの男の事だ。
振られてなお、声をかけてくるなんて未練があるとしか思えない。」

前嶋貴文…食えない男だと思う。

1、2回断っただけでは諦められないと言う事か?

花は誰にも渡さない。

駐車場に戻り花を助手席に乗せる。
柊生も運転席に座り、気を取り戻して花に話しかける。

「そろそろ昼にしよう。何食べたい?」

「うーん。ファーストフードでいいよ。」
にこりと笑う花の笑顔に癒される。
つられて柊生も微笑み、

「花は安上がりだなぁ。
もう少し贅沢になってもいいと思うぞ。」

「ファーストフードは私にとっては贅沢品だよ。」

花は子供の頃、母との二人暮らしだったから、外食なんて贅沢は出来なかった。

柊生とは違う意味でファーストフードに憧れがある。

柊生にそんな話をした事は無いけど…。

「柊君にとっての贅沢なお店はどこ?」
花はそう、ふと思う。

「俺か?行って見たいなと思ったのは、回転寿司だな。」

思ってた事と違う答えが返って来る。

「回転寿司?もしかして、行った事ないの⁉︎」

「…無い。」

びっくり顔で花は柊生を見る。
花だってそんなには行った事が無かったが、誕生日や特別な日は、回転寿司に連れて行ってもらえた。

「そんなに驚く事か?」

びっくりし過ぎて言葉を無くした花を可笑しそうに、柊生はチラッと見る。
< 161 / 336 >

この作品をシェア

pagetop