若旦那様の憂鬱
「…料亭とか、焼肉屋さんとか言うのかと思ってたから…。」

「うちは、普通の人が行くような所には食べに行けなかった。一橋の人間が、回転寿司に行くなんてバレたら、大女将になんて言われるか分からなかったからな。」

大女将…柊生のお祖母様は今は引退しているが、温泉街では顔の知れた有名女将だったと聞く。

「お祖母様ってそんなに厳しいんだ…。」

「花は知らないだろうけど、あの人の前じゃ親父だって縮こまる。」

「そんなに…?」

「何かにつけて一橋の人間がって、人様の前に立つのにそんな格好で出歩くなって、親父は良く怒られてた。」

「そうなの…?」

「親父、休日だとジャージ愛用してるだろ。
あの格好は大女将にとっては、パジャマよりも恥ずかしい格好らしい。」

苦笑いしながら柊生が話す。

「お祖母様の前に行く時はこれから気をつけなくちゃっ。」

「花には優しいから大丈夫だろ。」
柊生はそう言って、

「回転寿司、行ってみるか。」
と、花を誘う。

「うん。行ってみよう。」
花も嬉しくなってテンションが上がる。

柊生の初めてに立ち会えるなんて、なかなか貴重な体験だ。
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