若旦那様の憂鬱
親父が話し出す。
「実は、翔子さんと再婚する時に分かった事なんだけど……言うに言えずここまで来てしまったが…花ちゃんの親権は、どうも元旦那さんの方のままなんだ。」
親父が言いにくそうに話す。
「法律上は、花さんの親権者は元旦那様のままなのです。この場合お母様の方には監護権という形で、花さんを養育出来る事になっています。」
「私、あの頃早くあの人から離婚したくて、場所も知られたく無くて…。
親権者の権については話し合いがなかったかもしれません。立会人の言われるまま離婚届けが、早く受理出来るようお願いしたので…」
「今、花さんが成人になりましたので、本人の意思で戸籍を外す事は可能です。
しかし、それには現在の親権者から承諾の書類を貰わなければなりません。
相手側が拒んだ場合、家裁裁判になりますが、話を聞いたところ円満離婚では無いようですので…、出来ればこちらの居場所は知られたく無いと言う事ですよね?」
「私と花は元夫から暴力を受けていました。
もう二度と会いたく無いし、今までもずっとあの人から逃げて来たんです。」
女将が珍しく、声を荒げて顔を手で覆う。
無理も無い。
忘れたい思い出したくも無い過去なんだ。
「お互い、合わずしてその裁判は可能ですか?」
そう聞いてみる。
「ええ、DV旦那との裁判の場合、私のような弁護士が中に入り、お互い合わずして話し合いは出来ます。
今、どちらにお住まいか分かりますか?」
「分かりません…。」
女将がそう答える。
「抜けた花さんの戸籍は一橋家に移しますか?」
「いえ、出来れば僕の方に移動出来ませんか?結婚したいと思ってます。
…ただ、まだ本人からの承諾は経ていませんが。」
俺はここぞとばかりに聞いてみる。
「ご結婚をお考えですか?それだったらそちらの方が断然楽です。相手側の承諾も要りません。」
「そうなんですか?」
「成人を超えた男女が結婚する場合は、親が反対してようが、関係無く婚姻届は出せるんですよ。私の出る幕は無さそうですね。」
会堂弁護士がにこりと笑ってそう言う。