若旦那様の憂鬱

「お疲れ様。夕飯は食べたのか？」

いつも通りに助手席のドアを開けながら、
そう聞いてくる。

「お迎えありがとう。
今日は、4時から入ったからまだ食べてないよ。
これ、店長から差し入れ。」

そう言って缶コーヒーを渡すと、柊君はお店に向かって笑顔で会釈をする。

さすが、抜かりないなぁと感心して見つめていた。
柊君が車に乗り込み缶コーヒーをひと口飲んで、

「俺、本当は無糖がいいんだけど。」
と言って笑う。
つられて私も笑って、
　
「次は無糖でお願いしますって言っておこうか？」
と伝える。

「それは、イメージ悪くなるから言わなくていい。」
いつでもどこでも、やっぱり一橋の若旦那の看板を背負って、体裁を気にしなくちゃいけないのは大変だなぁと思う。

「いつもお疲れ様です。」
柊君にペコリと頭を下げて敬う。

「それは花の方だろ？
もっと学生らしく友達と遊んだりするべきだろ、康生みたいに。
バイトなんてそんなに頑張らなくてもいい。」