若旦那様の憂鬱
「ただいま。」
気持ちいつもより明るく玄関に入る。

「お帰り、花。寒かったでしょ。今夜は煮込みハンバーグだからね。」
母が、キッチンから顔を出す。

「その前に、お義父さんから何かお話があるんでしょ?柊君も来たよ。」

「あら。迎えに来てもらったの?仲良しねー。」
母がニコニコと意味ありげな表情を浮かべる。
私はあえて気付かないフリして、ダイニングで夕飯を食べている康君に目を向ける。

「お帰りー、花。なんか久しぶり会った気がするな。」
康君がこの時間に家に居るのは珍しい。

「ただいま…。
こんな早くに康君が夕飯食べてるの久しぶりだね。」

「俺も親父に呼ばれたから。」

「康君も?」

柊君も車を停めてすぐ入って来る。

「お邪魔します。これ、買って来たので後で食べて下さい。」
柊君は手土産まで持参していた。

「ありがとう。自分の実家なんだから手ぶらで来てくれたらいいのに。」

そう言いながらも、母は有り難く頂戴している。

「あら?冷蔵庫にもう一つ箱があるわ。」
そう言って、母が箱の中身を見る。
私も一緒に覗いてみる。

モンブランが5つ入っていた。
「きっと、正俊さんね。やっぱり親子ね、考える事は一緒。」
母が嬉しそうに微笑む。

丁度そのタイミングで、お義父さんが部屋からキッチンに来た。

「おっ、みんな揃ってるな。花ちゃんにケーキ買ってきたから、後でみんなで食べよう。」

「柊生君も買って来てくれたの。」
母は柊君の箱を見せる。
中は大きな苺のショートケーキが5つ入っていた。

「似たもの親子ね。」
母がそう言って笑う。

「いやいや、花ちゃんはモンブランが好きだろ?」
なぜが義父は胸を張ってそう言う。

「何言ってるんですか?花は昔からショートケーキですよ。」
柊君もなぜが憮然とした顔でそう言う。

「まぁまぁ2人とも、で、花はどっち食べるんだ?」
康君まで立ち上がりジャッジし出すから、私はどっちとも言えず困ってしまう…。

モンブランも好きだし、苺ショートも好き。
これは両方食べるべき?

3人からの熱い視線に戸惑いながら、

「えっと、私はどっちも好きだから…2つ食べちゃおっかなぁ。」
そう言いながら、お母さんに助けを求める。

ふふふっと笑って母が言う。
「花は本当、みんなに愛されて幸せね。
後で、みんなで食べましょう。」

そう言ってくれた。
母のお陰でその場は何となく収まり、ホッとする。
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