若旦那様の憂鬱
「では、今から第1回家族会議を開きます。
皆さん席に着いて下さい。」
義父が突然改まり、みんなをリビングのソファに誘導する。
よく分からないと言う顔で、康君と私は義父について行き、康君と一緒に向かいのソファに座る。
私の隣に柊君が座り、向かい側の義父の隣に母が座る。
「えっーと。では、ですね…。」
そう言ったきり、なかなか話出さない義父。
みんな固唾を飲んで見守る。
すると、突然義父が頭を下げて花に言う。
「花ちゃんごめん。今まで隠していた事がある。」
そう言って、1枚の紙をこちらに差し出してくる。
私は何が何だか分からないままその紙を見る。
康君も同じように覗いてくる。
戸籍謄本?
これは、一橋家のもの…。
義父の隣に母の名前、その横には柊君と康君の名前が並ぶ…。
あれ?私の名前が無い…養子の欄にもどこにも私の名前が無い。
思わず柊君の顔を見る。
何とも言えない神妙な顔をして私を見守っている。
堪らなくなったのか母が、
「ごめんなさい。私がいけなかったの…
早くあの人から離れたくて言われるままにサインして…花の親権の事とか気にかけもしないで…
今まで知らなかったの。あちこちを転々としてたでしょ?戸籍をちゃんとしたのも結婚してからで…
全部、正俊さんにお願いしてしまっていたから一度も見た事なくて…。」
そう言って顔を手で覆う。
そんな母の肩を優しく義父が包み込む。
「いや、気付いた時に僕が言うべきだったんだ。
…僕も翔子さんと結婚したい気持ちが先立ってしまって……、
花ちゃんの戸籍を変えるには相手側の承諾が要るんだ。相手側から受けた暴力の話は聞いていたから、接点を持って欲しくなかった。
2人の安全を守りたかったんだ。
紙の中だけの事だと割り切ってそのままにしてしまった。だけど、花ちゃんは僕の子だってずっと思ってる。」