若旦那様の憂鬱

義父の気遣いも、母の気持ちもよく分かる。
2人を責める気持ちは無い。

ただ、私の籍はまだあの男のところなんだ…。

と思うと目の前が真っ暗になる…。

手が震えて止まらなくなる…。
知らない間に目から涙が流れ、紙に落ちて滲む。

「でもさ、花。
こんな紙切れなんて今まで見た事も無かったでしょ?
俺は10年間ずっと妹だと思って一緒に育って来たんだ。それが事実なんだから気にしなくいいと思う。」
楽観的な康君がそう言ってくる。

「そうよ花、たかが紙切れで私達の人生の何が分かるって言うのよ。」
涙目になりながら母が言う。

「そうだよ。花ちゃん!
僕らは家族なんだ。花ちゃんが悲しいとみんな悲しい。嬉しいとみんな嬉しい。心配する事なんて何も無い。みんなで花ちゃんを守るから。」

そう言って、お義父さんは頭をよしよしとなぜてくれた。

柊君は無言でそっとハンカチで涙を拭いてくれる。

みんな優しい。
私は1人じゃ無い。大丈夫……。

「誰も、悪く、無い…。ありがとう…うっ…うっ……。」

そう言うのが精一杯で、絶え間なく溢れる涙を止める事が出来なくて…。
みんなが心配するから泣き止まなきゃと思うのに、みんな優しいから優しさに泣けてしまう。

「あっ、ほら、花ちゃんケーキ、ケーキ食べよう。」
そう言って、義父は立ち上がり取りに行ってくれる。

「そうね。こう言う時は甘いもの食べて元気出しましょ。紅茶入れて来るわ。」
母も、目頭を手で押さえながらキッチンへ向かう。

柊君は、終始私の背中を撫ぜながら静かに寄り添ってくれていた。
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