若旦那様の憂鬱

2階の階段を上がり、花は自分の部屋に柊生を招き入れようとすると、

「そっちじゃない。」
と手を引かれ、気付けば柊生の部屋の中に引っ張りこまれていた。

学生時代の時のまま、時間が止まったかのような柊生の部屋に、花は今まであまり入った事が無かった為、
ついキョロキョロと周りを見渡してしまう。

「大丈夫か?」
柊生が心配気味に見下ろしてくる。

「…もう、大丈夫。」
花は小さな声でそう言う。

「おいで。」
柊生は花に向かって両手を広げてくる。
花は一瞬躊躇するが、柊生の胸に恐る恐る近付く。

ぎゅっと抱きしめられ、ドキンと鼓動が跳ねる。だけどホッと安堵もする。

花はしばらくその状態で、
柊生の胸に耳を当て、規則正しい心臓の音を聞いていた。

そうしていると、ちょっとずつ落ち付きを取り戻す。

「ケーキ空きっ腹に3つも食べて大丈夫か?」
そう言って、心配そうに頭を撫ぜる。

「…大丈夫。甘い物は幸せにしてくれるから。」
花がそう言う。

「キスしても、いいか?」

いつもだったらそんな事聞かないのに…。
「何で聞くの?」
そう思って聞いてしまう。

「花を慰めたいのに、逆効果だったら辛いから。」
そう言って、柊生は花の額にそっとキスをする。
花の様子を伺いながら、瞼に頬に、そして唇に、優しいキスをする。

柊生の優しさを嬉しくて、花がふふっと笑う。
その笑顔を見れただけで柊生もホッとして、フッと笑って抱きしめる。

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