若旦那様の憂鬱
「お待たせしました。」
花が居間に行くと柊生が紋付袴を着て既に待っていた。
さすが若旦那様と思う出立ちで、つい見惚れてしまう。

柊生も花の佇まいに一瞬で目を奪われ、
しばらく2人見つめ合って止まってしまう。

「はいはい。
さぁ、早くいってらっしゃいな。」
間を割って入った母が、
笑いながら2人の視界を塞ぎ、我に返らせる。

「…行って来ます。」
と、柊生に促され花は玄関を出る。

外は寒いが、良い天気で雪も溶けて無くなっている。
それでも花が、慣れない草履に転ばないかと
心配した柊生は花の手を握る。

「ありがとう、柊君。」
花が微笑み柊生を見る。

「花、どうしよう。
このまま、どこかに連れ去りたいんだけど…」
目を合わせてふふっと、花が笑う。

「そんなにお祖母様って怖いの?」

「花から見たら、普通のお祖母様かもしれないけど、俺達から見たらただの鬼だ。」

えっ⁉︎っと花が柊生を二度見する。

「鬼⁉︎って……。」
柊生はため息混じりに苦笑いをして、

「終わったら、せっかくだから近くのお宮で参拝して帰ろうか。」

「はい。」
にこりと笑う花が可愛過ぎて、
柊生は抱きしめたい衝動に駆られる。

< 194 / 336 >

この作品をシェア

pagetop