若旦那様の憂鬱
「あら、2人並んだ所を見ると、まるでお大理様とお雛様みたいね。」
祖母は笑う。

「花ちゃん、振袖とてもよく似合ってるわ。
成人式のお写真も正俊から見せてもらったけど、やはり実物はもっと華やかね。」
目を細めて花を見る祖母は、とても優しいお祖母様に見える。

「ありがとうございます。
お祖母様から頂いた振袖とても素敵で、お友達からも大好評でした。」
花はそう言って微笑む。

柊生は内心思っていた。

これほど威圧感のある祖母に怯む事なく、普通に会話をしている花は肝が座っている。

それとも、祖母の本当の怖さを知らないと言う、幸せな世界の住人なのかもしれない。

そのまま、知らないままでいて欲しいと願うが…。

「で、柊生さん。お話って何かしら?」
にこやかな眼差しの中にも、キラッと光る怖さを柊生は確かに見た。

ここは礼儀正しく行くべきだ、と柊生は判断する。

両手を前について頭を下げ、まるで歌舞伎の口上のような話し振りで柊生は挨拶をする。

「お久しぶりでございます。
お祖母様におかれましては、大変お元気そうで何よりでございます。

実は、私事でありますが、こちらに居ます花さんと結婚したいと思いまして、お祖母様にご意見、ご承諾を頂きたいと、本日は参った所存でございます。」
そう一気に本題を話す。

花は唖然としながらも、柊生に従い慌てて手を前に揃え頭を下げる。

少しの間の間、2人は頭を下げたまま、身動き一つ出来ずに畳を見据えていた。

祖母はそんな2人を見つめ、是が非か分からない無表情のまま話し出す。
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