若旦那様の憂鬱
そうこうしてるうちに、玄関チャイムが鳴って森さんが帰って来た。

「婚姻届、とりあえず5枚ほど頂いてきました。間違ってしまった時の為です。」
そう言って、玄関まで出迎えた花に渡してくれる。
花は深々頭を下げてお礼を言う。
「わざわざありがとうございました。」

遅れて玄関に現れた祖母は、
「ありがとう、無理言ってごめんなさいね。少し休んでくれていいから。」
と、労いの言葉をかける。

「本日は、誠におめでとうございます。」
と、森は頭を下げてから奥へ下がって行った。

本物の婚姻届を手にして、花は身が引き締まる思いがした。

それから居間に戻り、出来る限り心を落ち着けて婚姻届を書き始める。

一枚目は緊張で手が震え、花は苗字を間違えて書いてしまった。

「一回練習させて。」
そう花は言って、書き損じた紙に何度も名前を練習する。

そのタイミングで玄関チャイムがまた鳴り、康生が到着する。

康生はとりあえず来たと言う風で、ジャージにニット帽姿だった。

それを見た祖母の逆鱗に触れ、

「なんなんですかその格好は?一橋の名を継ぐ人間として、恥ずかしくは無いのですか?」

婚姻届を書く傍らで康生相手にお説教が始まった。
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