若旦那様の憂鬱
柊生は苦笑いして何事にも動じず。

残り4枚の婚姻届を、まるでコピー機のように、一字一句書き間違える事なく綺麗な字で書き進める。

「これで花が間違えても、後4枚あるから何とかなるだろ。」
そう言って、この部屋で1人冷静にお茶を啜る。

花はそんな柊生を尻目に、深呼吸して心を落ち着け、
2枚目を書き始める。

今後は、現住所を書き間違えてしまう。

「どうしよう柊君……緊張して書けそうもない…」
花は少し弱気になってしまう。

「花、俺が見てるから緊張するのかもしれない。ちょっと向こうに行ってくる。
ほら、康生が叱られてる間に書いてしまった方が楽だぞ。」
柊生はそう言い残して席を外してしまう。

よし。と花は気合いを入れ、康生がお小言に反論し始めたのを耳にしながら、3枚目をなんとか間違わず書き終えることが出来た。

「柊君、書けたよ!」
花は嬉しくなって、キッチンの方で待っていた柊生を呼び戻す。

祖母も康生もその声で、言い争いを辞め花の書いた婚姻届を覗き込む。

「はぁ⁉︎何だよー俺また何にも聞いてないんだけど。」
そう言って、花達を責める。

「俺、起きたらとりあえず、この荷物をばあちゃん所に届けてくれって、頼まれただけなんだけど。」

康生はやっとその場を理解して、
「マジかよっ」
と、呟く。

「何なんですか、その言葉使いは?
だいたい昼近くまで寝てる貴方がいけないんでしょうが。」
またまた祖母に責められ、康生はガシガシと頭を掻く。

「だいたい、俺がわざわざ荷物届けてやったのに、誰も俺の事助けてくれなかったしさぁ。」
まだ、言い足りないのか康生は負けずと言い続ける。

「お前の日々の行いが悪いんだよ。悔い改めろ。」
柊生が鋭くそう言い放つ。

花は空気が悪くなるのを感じ、慌てて康生に話しかける。
「ありがとう。康君、すごく助かったよ。
あとね。康君には重要な役割があって、この証人の欄にぜひ名前を書いて欲しいの。」
そう言って康生に笑いかける。

「マジかよ…。えっ?また重要な……
えっ⁉︎ばあちゃんの横に名前書かなきゃいけないのか?」
康生は懲りずに祖母の怒りをかってしまう。

「絶対間違えるなよ。花がせっかく書けたんだからな。」
そう柊生に言われ、さすがの康生も身の引き締まる思いがする。


< 208 / 336 >

この作品をシェア

pagetop