若旦那様の憂鬱
「私…ずっと、片想いだと思ってたから、そろそろ諦めなくちゃって…思って……お見合いする気になったんだけど…。」
「諦めるなよ…。
まぁ、俺も花の気持ちに気付いて無かったから…。花のおかげで花を失わなくて済んだんだけどな。」
花はあの時、思い切って告白して良かったと心から思った。
「お祖母様は、私に若女将は無理だって思ってるのかな……。」
「そう言う訳じゃ無いだろ。
むしろ俺は、花は女将業向いてると思うけど。」
「本当に?…でもすぐ転ぶし、着物も1人じゃ着れないよ。」
フッと柊生が笑って言う。
「花はいつも前向きで、土壇場に強い。
気配りも思いやりも、心配になるほどお人好しな所も申し分無い。
向上心も高いからなんだって直ぐに出来る様になると思うし。
それに旅館のみんなにも好かれてる。
だけど…俺個人としては嫌だな。」
柊生がチラッとこちらを見てそう言ってくる。
「セクハラされるから?」
前にそんな話しをしたから聞いてみる。
「それもそうだけど…旅館にはいろんな客が来るから、人間の嫌な所もたくさん見る事になる。
花には出来るだけそう言うの見せたくない。」
「でも…どんな仕事だって嫌な部分はあると思うよ?」
花はそう思う。
「だけど、やらされてる仕事より、やりたい仕事をした方が幸せだろ?」
「柊君は?若旦那様は大変?辞めたいって思う?」
「今は、意外とやり甲斐もあるし、人に喜ばれると嬉しいし、昼も食べ損なうくらい忙しい時もあるけど、面白くもあるよ。」
花はホッと安心する。
「良かった。嫌々やってるようには見えなかったから、嫌いじゃ無いんだね。」
「困った事にね。」
柊生が苦笑いする。
「花はまだ学生なんだから、そんなに将来を思い図らなくてもまだ2年あるんだ。
康生なんて後何ヶ月も無いのに、今だにあんな感じなんだ。
ああいう奴が意外と上手く世渡りしていけるんだろうな。」
柊生が呆れた様な顔をするけど、思っていたより、弟の事もちゃんと認めてるんだなぁと花は思う。