若旦那様の憂鬱
「花、指輪そろそろ左手に変えないか?花は俺のものだって証。」

あっ、婚姻届も出したのだから、それもそうだと思って花は右薬指の指輪を外す。

もらってから1度も外さず身に付けていたからか、違和感も無くしっくりしていた。
外すと少し寂しいと思ってしまうほどだ。

柊生はその指輪を
「貸して。」
と、花から受け取って左の薬指にはめる。

「うん、いいね。似合ってる。」
手を取り、指輪に口付けをする。

「…ちゃんとプロポーズしてなかったな。」

ポツリとそう言ったかと思うと、突然、花の手を取って花の前に跪く。

花はびっくりして目を見開く。

「花、愛してる。
この先もずっと俺のそばに居て欲しい。結婚してくれるか?」

柊生から真剣な瞳で見つめられ、恥ずかしくてドキドキするのに目が離せない。

「はい。…よろしくお願いします。」
花はそう言うのが精一杯で…

握られている手が熱い。

柊生が優しく笑う。
視線が絡まり、どちらともなくキスをする。

コツンと額を合わせて柊生が呟く。

「これ以上すると帰せなくなるから…。今夜は送る。決心がついたら引越しておいで。」
そう言って、花を立ち上がらせそのまま玄関に連れて行く。

「これ、この部屋のスペアキーだから、花が来たい時にいつでも来てくれたらいい。」

花にコートをかけ、カバンを持たせて忘れ物が無いか聞いてくる。

どうしたんだろう?突然追いやられるように帰されるのは?花は不思議な顔で柊生を見上げる。

「そんな顔で俺を見るな…。帰したくなくなるだろ。」

もう限界だ……。
花と二人っきりで手を出さないなんて拷問はこれ以上耐えきれない。

と、柊生はどうにか理性を保っている状態だった。
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