若旦那様の憂鬱
家に着いて、何よりも花の足の靴擦れが気になる。

「花、足見せて。」
玄関に入り早々、花にそう言って抱き上げる。

「えっ!!ちょっ、ちょっと待って、足汚いし、足だけでも洗わせて。」
焦って花が腕の中でバタつくから、仕方が無いなと風呂場に連れて行く。

「足洗ったらすぐ来て。」
そう言って花を下ろして、俺はキッチンに行って、手を洗い弁当を温めお湯を沸かす。

おずおずと足を洗って、リビングに入って来た花がソファにちょこんと座る。

部屋がまだ温まってないから、花が寒いだろうと膝掛けを肩からぐるぐる巻きにして、
「部屋が温まるまでそのままでちょっと待ってろ。」

うん。と頷き、花はなすがままでじっとしている。
「足の靴擦れ見ていい?」
救急箱を持って、花の足元に跪く。

踵の後ろが見にくくて足を高く持ち上げ過ぎて、花がこてんとソファに倒れる。
花は慌ててスカートの裾を抑える。

「ごめん、見にくいからそのままじっとしてて。」
そう言って踵を消毒して痛くないようにと絆創膏を2枚重ねて貼る。

「良し出来た。
…花、一つお願いがあるんだけど。」
身体を起こしてソファに座り直した花に請う。
「はい…。」
花もきっと次の言葉が分かっているようで、緊張して返事をする。

「火傷の跡、見せてくれるか?」

花の実の父に負わされた、火傷の跡を見る事を避けてきた。

何より花が嫌がるだろうし、自分にそこまで踏み込む権利は無いと躊躇していた。

花の反応を見逃さないようじっと見つめる。

花が静かにこくんと頷き目を伏せる。

緊張してるだろう花の足を再び持ち上げそっと足の裏に触れる。ビクッと身体が揺れて緊張が伝わる。
花の反応を伺いながら目を落とす。

見た瞬間……衝撃で身体が震える。

悲しみなのか、怒りなのか…自分でも分からない感情が身体中を走り抜け、ただ、花が今ここに居てくれる奇跡に感謝する。
俺の震えを感じた花が、咄嗟に足を引こうとする。
俺は花の火傷の跡一つ一つにキスを落とす。

花は固まり信じられないと言う目で俺を見つめてくる。
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