若旦那様の憂鬱
前嶋は二人の強い絆を感じて、
どこにも入る隙が無いと思い知る。
諦める以外自分に出来る事は何も無い…。
「お話しは分かりました。
貴方達には私が入り込む隙が無いほど強い絆があるんですね……。
完敗です。若旦那、最後に二人だけでお話がしたいのですが、少し外で話ませんか?」
柊生にそう前嶋が言い、先に外に向かって出て行く。
柊生は立ち上がり花に、
「ちょっと行って来るから、心配しないで待ってて。」
と歩き出した前嶋の後ろを追いかけるように通路を歩く。
店から出る直前に、柊生はマスターに花にココアを届けてもらうようお願いする事も忘れない。
その全ての動作を見ても、やはり自分には敵わないと前嶋は思った。
店前のベンチに座り前嶋が話し出す。
「やはり、貴方は完璧ですね。
悔しいかな貴方には勝てそうも無い…。」
そうため息を吐いて、前嶋は足元を見つめる。
「そんな事はありません…。
花については感情が先走り、上手く立ち回れない事ばかりです。
情け無いけど、自分の無力さを通過します。」
「そんな風には到底見えませんが?」
前嶋が顔を上げてそう答える。
苦笑いしながら柊生も前嶋の隣に座る。
「昨日も、僕は審査員でありながら花を優先して、席に着くのに1分遅れました。」
爽やかにそう笑う。
「あれは、彼女の夫としては当然だと思いますよ。」
「そう言って頂けると幾分気持ちが晴れます。」
「私も弓道をやっていた頃があって、
貴方の事は以前から知っていました。
実は大学の時に対戦もしてます。」
「そう、でしたか。
すいません覚えて無くて…。」
「貴方は所作も精神力もすべて完璧だった。
3歳年下の貴方に憧れのような嫉妬のような感情を持っていたんです。
だから、花さんに対しても諦めきれなかったのかも…貴方の完璧を崩したい思いもありましたしね。」
前嶋は苦笑いする。
「僕は、花から犬みたいだってよく言われるんです。」
「犬、ですか?」
「多分、ご主人様に忠実な忠犬みたいに思われてるのかも。
彼女にいつも心乱され、振り回されてばかりです。しかも困った事にそんな自分が嫌いじゃ無いんです。完璧なんて程遠い。」
ハハっと柊生は苦笑いして立ち上がる。
「貴方の仮面を剥がしたかったけど、
残念ながら出来ませんでしたね…。」
そう言って、前嶋も立ち上がり名刺を1枚渡す。
「俺のプライベートな番号です。
今度良かったら、腹割って話しません?」
ニッっと笑った前嶋は、今までとは違うように見える。
「分かりました。結構忙しくしてるので、
いつにとは言えませんが、連絡します。」
柊生は表の顔で笑い、一礼して店に戻って行った。
最後までアイツの仮面は剥がせなかったな、と前嶋は苦笑いする。
俺は結局、ライバルにもなれないのか…。
柊生が入って行った扉を見つめため息を吐く。
どこにも入る隙が無いと思い知る。
諦める以外自分に出来る事は何も無い…。
「お話しは分かりました。
貴方達には私が入り込む隙が無いほど強い絆があるんですね……。
完敗です。若旦那、最後に二人だけでお話がしたいのですが、少し外で話ませんか?」
柊生にそう前嶋が言い、先に外に向かって出て行く。
柊生は立ち上がり花に、
「ちょっと行って来るから、心配しないで待ってて。」
と歩き出した前嶋の後ろを追いかけるように通路を歩く。
店から出る直前に、柊生はマスターに花にココアを届けてもらうようお願いする事も忘れない。
その全ての動作を見ても、やはり自分には敵わないと前嶋は思った。
店前のベンチに座り前嶋が話し出す。
「やはり、貴方は完璧ですね。
悔しいかな貴方には勝てそうも無い…。」
そうため息を吐いて、前嶋は足元を見つめる。
「そんな事はありません…。
花については感情が先走り、上手く立ち回れない事ばかりです。
情け無いけど、自分の無力さを通過します。」
「そんな風には到底見えませんが?」
前嶋が顔を上げてそう答える。
苦笑いしながら柊生も前嶋の隣に座る。
「昨日も、僕は審査員でありながら花を優先して、席に着くのに1分遅れました。」
爽やかにそう笑う。
「あれは、彼女の夫としては当然だと思いますよ。」
「そう言って頂けると幾分気持ちが晴れます。」
「私も弓道をやっていた頃があって、
貴方の事は以前から知っていました。
実は大学の時に対戦もしてます。」
「そう、でしたか。
すいません覚えて無くて…。」
「貴方は所作も精神力もすべて完璧だった。
3歳年下の貴方に憧れのような嫉妬のような感情を持っていたんです。
だから、花さんに対しても諦めきれなかったのかも…貴方の完璧を崩したい思いもありましたしね。」
前嶋は苦笑いする。
「僕は、花から犬みたいだってよく言われるんです。」
「犬、ですか?」
「多分、ご主人様に忠実な忠犬みたいに思われてるのかも。
彼女にいつも心乱され、振り回されてばかりです。しかも困った事にそんな自分が嫌いじゃ無いんです。完璧なんて程遠い。」
ハハっと柊生は苦笑いして立ち上がる。
「貴方の仮面を剥がしたかったけど、
残念ながら出来ませんでしたね…。」
そう言って、前嶋も立ち上がり名刺を1枚渡す。
「俺のプライベートな番号です。
今度良かったら、腹割って話しません?」
ニッっと笑った前嶋は、今までとは違うように見える。
「分かりました。結構忙しくしてるので、
いつにとは言えませんが、連絡します。」
柊生は表の顔で笑い、一礼して店に戻って行った。
最後までアイツの仮面は剥がせなかったな、と前嶋は苦笑いする。
俺は結局、ライバルにもなれないのか…。
柊生が入って行った扉を見つめため息を吐く。