若旦那様の憂鬱
前を歩いていた柊生が振り返り、
「花、体調は大丈夫か?」
と、聞いてくる。

昨日の出血をまだ心配しているらしい。

「もう何とも無いよ。そんなに心配しないで。」
ふふっと花は微笑む。

柊生は、花の横に来て足並みを合わせてゆっくり歩き出す。

「お仕事、大丈夫?」

「ああ、本当は休日だったんだけど、
親父も女将も昨日遅くなって泊まり込みだったから、休日返上して出たんだ。
2人は俺が旅館に戻ったら家に帰って休んでもらうつもりだ。」

「ありがとう。いつも2人の事を助けてくれて。」

「家族経営なんだから当たり前の事だろ。」

「私は…旅館には役に立たないかなぁ?」
なんだか疎外感を感じて寂しくなる。

「花は幼稚園の先生になりたいんだろ?
好きな事やって生きればいい。」
そう柊生は優しく笑う。

「お義父さんもそう言うけど…
ちょっと寂しいなって…
私も家族の一員なんだから、何か手伝いたいなぁって思うの。」

「花は、俺達家族の希望の花だから…。
出来れば旅館に縛られず、
自由に生きて欲しいって親父が言ってた。」

「どう言う事?希望の花?」

「花が、親父と女将さんをくっつけてくれたんだって言ってたぞ。覚えてないのか?
俺は詳しくは知らない。」

何の事だろうと花は考えこむ。

「乗って。」
柊生がわざわざ助手席のドアを開けてくれる。

「あ、ありがとう。」
レディーファーストに慣れていない花は戸惑いながら、助手席に乗り込む。
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