若旦那様の憂鬱
「俺なんかに好かれても困るだろ?」

「何で…そう思うの?」

寂しそうに笑って柊生が言う。

「俺といても未来が無いから…俺と結婚すればもれなく旅館もついてくる。家に縛られるなんて可哀想だろ。
好きな子には、自由に好きな事をして生きて欲しい。
…だからその子には、この気持ちは一生言わないつもりだ。」

「…柊君は旅館に縛り付けられてるの?好きで旅館で働いてるのかと思ってた…。」

「旅館を継ぐのが当たり前だと思って生きてきたからな。」

「他にやりたい事とか無かったの?」

「お前は跡継ぎだって言われて育ったから…だけど今は旅館の仕事は嫌いじゃ無い。」

やりたい事が自分で決めれるって、
実は贅沢な事なんだと花は改めて思う。

「だから、花だけはやりたい事を見つけて、
行きたい場所に行って、旅館に縛られず自由に幸せに生きて欲しい。」

「私は…柊君も幸せになって欲しいよ。」

ハハって笑い飛ばすように柊生は軽く笑う。

「花の幸せが、俺の幸せだ。」

花は胸が締め付けられて痛い。

今までそう思って生きて来たんだと、柊君の悲痛な気持ちが苦しくて泣きたくなってしまう。

私が泣いてもどうにもならない…。 
 
花は、両手をぎゅっと握りしめて泣かないように堪えることしか出来なかった。

流れる景色の中、後は2人無言で帰路に着く。
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