若旦那様の憂鬱
「なぁ。花、日焼け止め塗ったか?」

「日焼け止め?お化粧に入ってたと思うけど?」

「そんなんじゃ心配だ。並ぶ前にコンビニ行こう。」
引っ張っていたはずの私の手を、今度は柊君が引っ張ってコンビニへ向かう。

「夏じゃ無いからそんなに心配しなくても…。」

「今の時期の方が焼けやすいんだよ。花の白い肌を守るのは俺の役目だ。」
食い気味にそう言って、足速にコンビニに飛び込み、
UVケア商品を真剣な顔でじっくり見始める。

「肌に合わなくて荒れてもいけないし、意外と難しいな。この中で今まで使った事があるのはあるか?」

隣でボーッと見ていた私はハッとして商品を見る。

「このメーカーは使った事あるよ。」
1つの商品を指差すと、すかさず柊君はそれを手に取って裏面の成分表示までしっかり読んでいる。

「よし、これにしよう。」
やっと決めて会計に行くまで10分は要してしまった。

コンビニに行ってる間に列は先程よりも倍ぐらいに増えていた。

「あっという間に増えたな。迷子にならないように俺の手を離すなよ。」
柊君は私の手をぎゅっと握って最後列に並ぶ。

「今のうちに日焼け止め塗っとくか?」
柊君が、買ってきたUVクリームを取り出して、私の顔に塗ろうとするから驚き、思わず後退する。

「しゅ、柊君、じ、自分で塗るから、
…ちょ、ちょっと、お手洗い行って来ようかな?」
さすがにここでは恥ずかしい。

柊君のイケメンオーラがダダ漏れのせいで、さっきから周りの女子の騒つきも気になる…。

もうちょっと自覚して欲しい。

「塗るからじっとして。」

「しゅ、柊君、ちょっとそれは、恥ずかしいから…。」

「誰も見てないから気にするな。」

いやいや、後ろの女子達や横のカップルや、いろいろ注目集めちゃってるから。

柊君は周りの目とか気にならないのかなぁ?

構わず私の顔にちょんちょんとクリームをつけて、指で優しく撫でて伸ばしていく。

私は恥ずかしくて、真っ赤になってしまう。

「そんなに恥ずかしいか?」

笑いながら柊君はそう言うけど辞める気は無いようで…
結局、最後まで丁寧にクリームを塗ってくれた。

お陰でさっきよりも周りの注目を浴びて、恥ずかしさのあまり顔があげられなくなった…。

「花、手も塗っておこう。」
柊君は全く動じる事なく、私のお肌を熱心にケアし続ける。

「これでよし。」
頷き、私の頭をポンポンと撫ぜて満足そうに微笑んでいる。
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