若旦那様の憂鬱
ホント人前での過保護は節度を考えて欲しい……。

「花、そろそろ開くみたいだぞ。」

背の高い柊君からは園内の動きがよく見えるらしく、オープン前の動きを素早く察知する。

「背が高いって便利だね。」
羨ましいなぁと、ため息混じりでそう呟く。

私の声のトーンで何かを察したのか、柊君は怪訝な顔でじっと私を見下ろしてくる。

「見たいのか?…なんかの着ぐるみ来たぞ?」
園内を指差してそう言う。

夢の国で着ぐるみとか言わないで……。

ちょっとムッとした顔をして咎めてみる。
伝わってるかな?

突然、ぎゅっと太腿辺りを抱きしめられびっくりした瞬間、抱き上げられて目線が高くなる。
わっ!となって柊君にしがみつく。

「見えたか?」

まるで動物園で子供を高く持ち上げて、動物を見せるパパみたい…

思わずぷぷっと笑ってしまう。

「柊君…さすがにこれは…。」
笑いながら柊君を見下ろす。

あっ…この景色はなかなか無いな。

柊君のつむじが見えるのは新鮮、テンションが上がって楽しくなってくる。

園内にはキャラクター達が次々に出てきて、手を振ってくるから、ついつい振り返す。

「良かった…やっと笑った。」
柊君が嬉しそうに笑う。

「別に怒ってないよ?…ちょっと恥ずかしいだけで…。」
小さな声で呟く。

「夢の国では花を思いっきり愛でて、甘やかすって決めてるんだ。許してくれるか?」
そんな甘い誘惑を子犬のような顔で言ってくるから、絶対確信犯だと思うのに……

ついつい逆らえずこくんと頷いてしまう。

フワッと下ろしてくれて、やっと地面に足が付く。

「じゃあ仲直り。」
そう言って柊君は私の手を握り、
動き出した人混みから私を守るようにゆっくり歩き出す。

怒ってないし、けんかした覚えも無いよ?

そう思いながら柊君の手をぎゅっと握り返す。
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