若旦那様の憂鬱
「ったく油断も隙もないな。」
花を抱きしめてフッと息を吐く。

「大丈夫か?どこか触られなかった?
ああいう男からは走って逃げなきゃダメじゃないか。」

「…だって、柊君が絶対動くなって言うから…。」

柊生を見上げて来る花の目はまだ少し怯えている。

「ごめん、1人にして。…怖かったか?」
いくらか気持ちが落ち着いた柊生は花を優しく労わりながら、肩を抱いて歩き出す。

「大丈夫。柊君がいなくて寂しかっただけ。」
フワッと笑う花の肩を柊生はぎゅっと抱きしめ、
「もう離れないから。」
と安心させる。

「どこ行ってたの?」

「ちょっとサプライズしたくて…。」
そう言って、パレードを待ち侘びて場所取りしている人の間を横切る。

どこ行くの?
と花は思いながら着いて行くと…

「すいません、一橋と申しますが。」
スタッフに柊生はそう告げる。

「お待ちしていました。」
と執事風のスタッフに誘導されて、
人混みを掻き分け開けたテラスに到着する。

「こちらです。」

スタッフが示す先は特別席のテラスだった。

「ありがとうございます。」

と、にこやかに微笑む柊生はまるで王様のよう…、いや犬耳の王子様かな。
そう思いながら花は大人しく着いて行く。

案内された場所にはreserveと書いたプレートが置かれていた。

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