若旦那様の憂鬱
「…ねぇ。お母さん、お義父さんと結婚して幸せ?」
「もちろんよ。
子供が一気に3人になったし、いつも家族と一緒にいられて、こんな幸せな仕事無いと思ってる。
何でそんな事聞くの?」
「柊君がね。
一生結婚はしないって言うの…。
俺と結婚しても未来が見えないって、もれなく旅館がついてくるから、家に縛り付けたく無いって…。」
「柊生君モテるのに、最近、彼女と上手くいってないのかしら。」
母も心配そうな顔をしながらこんな話しをする。
「柊生君が家を出る時に、私達が転がり込んだから柊生君が居辛くなっちゃってたのかと思って、誤ったの。
そしたら、自分の為だって言ってたから…彼女と同棲でもするのかと思ってたのよ。」
「お母さんは、再婚して女将になるってなった時どう思った?」
「お母さん、正俊さんにプロポーズされた時、直ぐには返事が出来なかったの。
花が少しでも反対したら結婚はしないって思ったし、こんな大きな旅館の女将なんて、私には務まらないって思ったしね?
だけど花がね、良かったねって凄く喜んでくれたの。
家族旅行とか一生行けないかもしれないよって言ったのに、ここにいたら毎日が旅行みたいなものだって。
毎日温泉に入れるし、毎日家族と一緒に居られるって。なるほどなぁって納得したのよ。」
「そんな事言ってた?
覚えてないなぁ。確かにこの街で住むようになってから、毎日旅行してるみたいって不思議な感覚だったけど。」
当の本人は母の人生を変えるほどの事を言った覚えは無かった。
「柊生君にもそう言う言葉が必要なのかも。考え方が変わると気持ちって変わるものだから。」
「そうだね。みんな幸せになれればいいのに…。」
花はいつかこの話しを柊生に話したいと思った。