若旦那様の憂鬱
「しかしこんなに若くて可愛い奥さんをもらうなんて、終生君も幸せ者だなぁ。どこで知り合ったの?」

しばらく倉橋の質問責めは続く。

ソファに座ってる間も柊生は死角で手を握ってくるので花はハラハラして気が気ではない。

「すいません。新婚さんを長く引き止めるのもいけませんね。」

10分、15分でやっと解放されて仲居さんの案内で離れに行く。

その間も柊生の手は花の手を離す事なく繋がっていた。

「しゅ、柊君…恥ずかしいから手を離して。」
居た堪れなくなってきて、柊生にそっとお願いする。

嫌だと、柊生は口だけ動かしてそう伝えてくる。
花はいよいよ困ってしまう。

「仲がよろしくて羨ましいわ。新婚旅行ですか?」

「そんなものです。
なかなか時間が取れなくて、やっと来れたものですから。」
柊生は至って表の顔でにこやかに微笑み、
仲居さんと話をしている。

「もうすぐ9時近くになりますけど、
お夕飯はどのように致しますか?」

「今日は遅いので夕食は結構です。
直ぐに風呂にも入りたいですし、近くにコンビニか何かありますか?」

「それでしたら何かおにぎりでもご用意いたしますよ。渡り廊下の手前に置かせて頂きますので。
内風呂もございますし、どうぞごゆるりとお過ごし下さい。」
行き届いたおもてなしに心がほっこりする。

仲居さんは綺麗な所作でお辞儀をして去って行った。

改めて部屋を見渡すと12畳くらいの居間に、続き間にはすでにお布団が敷かれていた。
手前にはベッドが置かれた部屋まである。


「凄い広いね。こんな部屋あるんだね。」

花はふと景色を見ようと窓辺に近付こうとするが、
柊生の手がまだ離してくれなくて自由が効かない。

「うちにもあるよ、こういう離れは。
何かの時のために必ず予約を入れずにしてあるんだこういう部屋は。」

「あっ、だから繁盛期なのに泊まれたんだね。」

「そう言う事だ。」

そう言って柊生が手をグッと引っ張り花は不意に抱きしめられる。

「早くこうしたかったのに、あいつワザと長く話してた。」
ぎゅっと抱きしめながら柊生が不貞腐れる。

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