若旦那様の憂鬱
7時には朝食を食べ終える。

お化粧も向こうでするから、
歯磨きとお手洗いだけでスタンバイは終了する。

「花、ハンカチとテッシュ入れときなよ。後、会場まではタクシーで行くの?
詩織ちゃんと行くんでしょ?」

「うん。詩織ちゃんのお母さんが車出してくれるみたいだけど。」

「本当?お礼を言わなくちゃ。
今日の感じだと、スタットレスタイヤ履いてないと危ないから、先に聞いてみた方がいいわよ。」

「あっ、うん分かった。」

中学からの友達の詩織ちゃんにメールする。

返信が来る前に玄関が開いて柊生が迎えに来た。

「柊生君ありがとう、わざわざ。車で来てくれたの?」

母が出迎えて柊生と話を交わしている。

「ええ、旅館前の坂で転倒したお客様がいたみたいで、結構アイスバンになってる箇所もあるようです。
市内でスリップ事故も発生してるようです。
俺の車スタットレスに履き替えてるので。」

「そうなのね。じゃあ安心ね。
お客様の出発も遅れそうかしら?私も戻った方が良い?」

「いえ、派遣の着付師が2名追加で入ってくれますし、レストランの方も追加で人員3名確保できたので大丈夫です。」

「そう、何かあったら直ぐ行けるようにするから言ってね。」

母との業務の話しが終わったようで花は顔を出す。

「分かりました。花、荷物は?」
柊生が気付いて直ぐに花に目を向け、荷物を受け取ってくれる。

「柊君ありがとう。忙しい時間帯に大丈夫だった?」

「大丈夫だ。花は転ばない事だけ考えてくれ。」

「はい…。」
どれだけ転ぶ人だと思われているんだろう。

「寒いからダウンにした方がいい。」

「あっ、はい、取って来るね。」
バタバタと小走りで部屋まで取りに行く。

「花、雪道は絶対走っちゃダメよ。
今日はいつもよりゆっくり歩くように心がけて。
着物を着たら、歩幅は小さく内股よ。」

「分かったよ…そんなに私って転びそう?」
2人に交互に目を向けると、2人してこくんと頷く。

「…気を付けます。」

「気を付けて行ってらっしゃい。
お母さんも、花と写真撮りたいから出発前には行くからね。また後で。」

「うん。行って来るね。」

「柊生君、よろしくね。」

「はい、行ってきます。」

2人で玄関を出て柊生の車に乗り込む。

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