若旦那様の憂鬱

「こんなとこで何してるんだ?」

頭をポンと優しく触れられて、びっくりして振り返る。
そこに居たのは怪訝な顔をした兄だった。

新年の挨拶回りの為か、着物を着て正装した姿は、カッコいいを通り越して、綺麗だと思ってしまうくらいで…

思わず兄を見惚れてしまいそうになって、慌てて視線を逸らす。

否応にも高鳴る胸をなんとか隠し、素っ気ない態度を取る事に徹する。

「雪、見ていたの。
積もりそうだなぁと思って。」

無理矢理外した視線でひたすら窓の外の雪を追う。

「ああ、やけに静かだと思ったら雪に変わったんだな。」

そう言って、私の隣りに来て窓の外を伺き見る兄。

私はというと、高鳴る胸を落ち着かせる為、あえてそちらを見ないように、そっと一歩下がる。

「だけど…、何でそんなに薄着なんだよ。風邪ひいても知らないぞ。」

普段は素っ気ないくせに、たまに過保護になって私の世話を焼きたがるからタチが悪い。

「寒くないよ。お風呂から出たばっかりだから平気。」
そう言って、ひたすら素っ気ない態度をとる私。

「風呂上がりだから余計にダメなんだよ。ほら、髪も生乾き…ったく…。」

ジロっと睨まれて、キュッと小さくなるしか無くて…

兄はスッと離れて行ったかと思うと、ドライヤーと毛布と座布団を持って、早々に戻って来た。

私を座布団に有無を言わさず座らせ、毛布でぐるぐる巻きにして、ドライヤーで肩下まで伸びた長い髪を乾かす…。


彼は私の初恋の人……

…そして今も………好きな人。

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