若旦那様の憂鬱
ロビーに到着して花は柊生を探す。

ソファのある場所にいるかと目を凝らし見ていると、
「花、こっち。」

後ろから声がして、こちらに向かって歩いて来る柊生を見つける。

着物からスーツに着替えていた柊生は、遠目から見ても足の長さとスタイルの良さがよく分かる。

「うわぁ…柊様カッコいい。」
花の隣でカンナと椎菜が呟く。

「こんばんは。お久しぶりです、清水カンナです。
高校時代に、何度か花と一緒に送迎してもらった事があるんですけど、覚えてますか?」
カンナが積極的に柊生に話しかける。

「ええ、今晩。覚えてますよ。確か、花と同じ部活でしたよね。」
柊生も物腰柔らかく、いつもの若旦那スマイルで微笑みを返しながら返事をする。

「嬉しい。あの、出来れば是非一緒に写真撮って頂けませんか?」
早速、カンナは柊生にそうお願いしている。

一瞬、柊生は花を見て微笑み、
「良いですよ。でも、ロータリーに車を停めているので、早く出ないといけないんです。一枚だけでお願いします。」

「はい。お手間は取らせません。」
カンナはそう言って、柊生を写真栄えの良い場所に誘導する。

「私が撮るよ。」
花が手を差し伸べてカンナのスマホを預かろうとするが、

「花も一緒に入って。」
と柊生が言って、カンナのスマホを花から奪い取り、

「ごめんね。お願いします。」
と、隣にいた椎菜に笑顔で渡す。

えっ?と花は戸惑う。

多分、カンナちゃんは柊君と二人で撮りたかったはず……と、カンナを心配そうにみる。

カンナが苦笑いしながらも、

「花も一緒に撮ろ。」
と、言ってくれたからホッとする。

3人で並んで一枚だけ撮ってもらう。
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