若旦那様の憂鬱
「だから早くあの場を離れたの?何か怒ってるのかと思ったよ。」
シートベルトを付けながら花は笑う。

「怒ってるよ……花が綺麗過ぎて、怒ってる。」
そう柊生は言って、車を走らせる。

「…そこは、褒めてくれるところなんじゃ無いの?
良く化けたねっとかって。」
綺麗、と言う言葉に花は動揺して咄嗟におどけてみる。

「花は元々綺麗だ。自覚が無いだけに無防備で、見てるこっちがハラハラする。」

立て続けの綺麗発言に、花の心臓は脈を打つ。

「何?褒めても何にも出ないよ。」
柊生は、ふっ、と前を見たまま苦笑いをする。

「腹は、減って無いか?ちゃんと食べれた?」

「立食形式だったから、あんまり食べれなかった…。
柊君は、夕飯食べた?」

「忙しくて、昼も何も食べてないな。ああ、花が置いてった手土産の饅頭は食べた。」

お昼に旅館に戻った時、旅館のスタッフへの差し入れを休憩室に置いて来たけど… ひと口大のお饅頭1つだけ⁉︎

「それだけ?お腹空いてるでしょ。先にどっか寄って食べようよ。」
家に帰るよりも先に何か食べて貰わないとと焦る。

「久しぶりに、あそこに寄ってくか。」
柊生が笑う。

花も直ぐに理解して笑う。

「懐かしいね。
高校時代よく学校帰りに寄ってくれたよね。」
あそことは、ファーストフードのドライブスルーで、柊生がお迎えの時は必ずと言っていい程寄っていた。

「柊君って、ファーストフードとか食べないイメージだったから、最初ちょっとびっくりした。」
当時聞けなかった事を聞いてみる。
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