若旦那様の憂鬱
「ありがとう…。」
私の髪を乾かし終わって、丁寧に櫛で梳かしてくれる。
母が再婚してから1年ほどで、一人暮らしを始めた柊君は、こうしてたまに実家に立ち寄っては、私にお節介を焼いていく。
「今日は新年の挨拶回りで忙しいんじゃなかったの?」
「まぁな。忙し過ぎて昼メシ食べ損ったんだ。夕飯まだだろ?」
「うん…、まだ康君が帰って来ないから、
一緒に食べようと思って待ってたんだけど…。」
「アイツなんて待ってたらいつになるか分からないぞ。遊び呆けてる奴はほっといて先に食べるぞ。」
そう言って柊君は、毛布でぐるぐる巻きの私を無理矢理立たせ、暖かいリビングに連れて行く。
「ちょっ、ちょっと、毛布動けないよ。早くとって。」
両手まで毛布でぐるぐる巻きにされて、自分では脱出することが不可能だった。
焦って柊君にお願いするしか無くて…。
「ハハっ、なんか雪だるまみたいで可愛いな。」
勝手に巻き付けたのはそっちなのに…
柊君は笑い、私の情けない姿を楽しんでいる。
「もう、早くとって…。
今夜は柊君が好きなビーフシチューにしたのに、意地悪するならあげないよ。」
そう言って、キッと精一杯柊君を睨み付ける。
柊君は笑いながらやっと毛布を取ってくれた。
「残念ながら、花は怒っても怖くないよ。可愛いだけだ。」
不意にそんな風に言うから、ボッと顔が真っ赤になって心臓が高鳴る。
そんな顔を見られないように、私は慌ててキッチンに逃げ込む。
何気ない風を装って、ビーフシチューの入ったお鍋を温め直す。