若旦那様の憂鬱

「ありがとう…。」

私の髪を乾かし終わって、丁寧に櫛で梳かしてくれる。

母が再婚してから1年ほどで、一人暮らしを始めた柊君は、こうしてたまに実家に立ち寄っては、私にお節介を焼いていく。

「今日は新年の挨拶回りで忙しいんじゃなかったの?」

「まぁな。忙し過ぎて昼メシ食べ損ったんだ。夕飯まだだろ?」

「うん…、まだ康君が帰って来ないから、
一緒に食べようと思って待ってたんだけど…。」

「アイツなんて待ってたらいつになるか分からないぞ。遊び呆けてる奴はほっといて先に食べるぞ。」

そう言って柊君は、毛布でぐるぐる巻きの私を無理矢理立たせ、暖かいリビングに連れて行く。

「ちょっ、ちょっと、毛布動けないよ。早くとって。」

両手まで毛布でぐるぐる巻きにされて、自分では脱出することが不可能だった。

焦って柊君にお願いするしか無くて…。

「ハハっ、なんか雪だるまみたいで可愛いな。」

勝手に巻き付けたのはそっちなのに…

柊君は笑い、私の情けない姿を楽しんでいる。

「もう、早くとって…。
今夜は柊君が好きなビーフシチューにしたのに、意地悪するならあげないよ。」

そう言って、キッと精一杯柊君を睨み付ける。

柊君は笑いながらやっと毛布を取ってくれた。

「残念ながら、花は怒っても怖くないよ。可愛いだけだ。」

不意にそんな風に言うから、ボッと顔が真っ赤になって心臓が高鳴る。

そんな顔を見られないように、私は慌ててキッチンに逃げ込む。

何気ない風を装って、ビーフシチューの入ったお鍋を温め直す。
< 7 / 336 >

この作品をシェア

pagetop