若旦那様の憂鬱
週に一度は花に会いに実家に帰る。

花を愛でて楽しむのが、最近の俺の唯一の癒しだ。

「ただいま…。」

玄関を開けて家の中に入る。

かつて住んでいた家が、今はまるで他人の家のようにさえ感じる時がある。

「こんなところで、何してるんだ。」

庭に面した寒い縁側で、花はパジャマにカーディガンという薄手で佇んでいた。

「雪、見ていたの。
積もりそうだなぁと思って。」

窓の外に目をやれば、いつの間か降り積もった雪が庭を真っ白に染めていた。

忙しかった一日が今やっと終わった気がしてホッとする。

花が風邪を引くといけないと思い、毛布でくるみ半乾きの髪をドライヤーで乾かす。

彼女は、いつも自分の事には無頓着で、他人の事ばかり心配するから、少しでも俺が気にかけてあげなければと、使命感のような物を勝手に抱いている。

彼女の、ころころと変わる表情が見たくて、いつもつい揶揄って怒らせてしまうが……。
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