若旦那様の憂鬱
気付けばお昼を回ったところで、スマホに康生から返信が届いている事に気付く。

『花と映画デートに行ってくる。』

はぁ⁉︎あいつは何を考えてるんだ⁉︎

バイトを休んだ分、家で休養させとくのが普通だろうがと怒りが増す。

きっとあいつ、花を無理矢理連れ出してるんだ。

一言もの申してやりたい。

何であいつはいつだって、花と当たり前のように出かけたり出来るんだ。
弟を羨ましいと思い、嫉妬のような感情を抱いてしまう。

思えば、出会った時からそうだった。

花は年が近いせいか康生にはすぐ懐いたのに、俺にはなかなか心を開いてくれず、仲良くなりたくて会うたびお菓子を与えたりした。

いつしかそれが日課のようになり、コンビニへ立ち寄るたびに、花の好きそうなお菓子を探し買うようになった。

手招きすると、花から寄って来てくれる事が嬉しかった。

はにかみながら微笑む顔が見たくて、まるで餌付けでもするように…。
学校から帰るとほぼ、毎日花を探して旅館の中を歩き回った。

あの頃俺は受験生で、勉強一色の毎日にほんの少しの癒しを求めていたのかもしれない。

結局、今とあまり変わって無いな。

要は花が俺にとって、唯一の癒しであり、安らぎであり、全てなんだ。

ああ、また好きが溢れ出す。

どうかこのまま誰のものにもならないで…。
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