彼は『溺愛』という鎖に繋いだ彼女を公私ともに囲い込む【episode.1】
 
 取締役室をノックして入ると、ドアの横にいた彼がすぐに鍵をかけて私を後ろから抱きしめた。

「何してるんだ。食事するのに、どうして彼のところにいるんだ?」

「巧は同期で、一緒に仕事をしていた相棒です」

「そしてお前に告白した相手だ」

「昔のはなしです。今は、あなたしか私は見えない。他の人に何を言われても変わりませんから」

 彼は、私のことをぎゅっと抱きしめ、胸を触ると首筋に頭を埋めた。うなじを吸い上げられて、キスマークをつけられる。

 これで髪をおろさないといけなくなった。こんなことしなくても大丈夫だって言っているのに、どうしてなんだろう。

「見えるところにしないでって言ってるのに……」

「わざとだよ。お前が思う以上に俺はお前を……外出から帰ったら今日も一緒にマンションへ帰るからな。仕事片付けておけよ」

 頼まれた内容の契約書を自分のパソコンから彼のパソコンのフォルダに入れたあと、念のためプリントアウトして書類に入れる。

 ハイヤーの運転手に確認して、駐車場へ下りるよう彼に声をかけた。彼が帰るまであと4時間。書類の整理やスケジュール変更、他部署との交渉など時間内に終わるとは思えない。

 仕事を持って帰るのは厳禁だし、明日のスケジュールに支障がない範囲のことだけやろうと切り替えた。
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