彼は『溺愛』という鎖に繋いだ彼女を公私ともに囲い込む【episode.1】

会食

 会長の車に乗せられて、料亭へと急ぐ。三橋新業務部長はすでに先に店へ入っていると言うことだった。

 暖簾をくぐると、良いだしの香りがする。実家で飲食店をやっているので、料理は一通りできる。特に洋食は出来るようになった。まかないも当然洋食になるので、家では和食を食べたくなる。

 料理は好きなので、できれば今度は和食を極めたいと常々思っていた。この店は参考になりそうだなどとつい考えてしまう。やっぱり料理が好きなんだなと自分でも再認識した。

 仲居に部屋へ案内されると、すでに座っている美男子がいた。

 俊樹もイケメンだが、どちらかといえば優しい顔立ち。女性的なのだが、目の前の彼はどちらかというと男らしい顔立ちだ。正当派のイケメンというべきだろうか。

 兄も男らしいイケメンだと思うのだが、これはそれ以上だ。親族のひいき目抜きで少し負けている。ごめんね、お兄ちゃん。達也さんは涼やかな目元が印象深い。

「達也、待たせたな。森川さんだ」

「初めまして。森川菜摘と申します。よろしくお願いします」

 正座して、新業務部長に挨拶をする。

「森川さん、初めて話せました。君は有名人だよ。隠れファンが多くてね。営業にも知られている。とりあえず、俊樹さんが君の周りを囲っているから気づいていないだろ?」

 最初から持ち上げられて、魅力的な笑顔を向けられた。しかも語り口が柔らかく、すっと懐に入るような感じ。

 これは気を付けないと全部もっていかれてしまう。

 たまにすごく社交的な営業の人がいるが、そういうタイプの人かもしれない。そのうえ、この美貌で二重奏。

「そうだったのか。全く、誠二は何を見ているんだ普段……。お前のほうが、社内に詳しそうだな」

「爺さん、まあ、そう言わずに許してあげてよ。叔父さんは年も年だし、軽い話はみんな警戒して叔父さんの耳へ入れないようにしてるんだよ」
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