彼は『溺愛』という鎖に繋いだ彼女を公私ともに囲い込む【episode.1】
「それが一番の難関なの。一人暮らししたいって一度言ったら同棲しようと言われて……。でもさすがにお父さんを思うと無理」
「ねえ、その彼氏さん、御曹司っていうけど、実質はどんな人なの?」
「仕事は要領よくて引っ張ってくれる。でも私の意見もきちんと聞いてくれるの。恋人としては……甘えん坊。料理をリクエストして嬉しそうにいつも食べてる」
それ以上は恥ずかしくて言えなくなった。まあ、そういうことだ。
「ふーん。菜摘ちゃんにそんな顔をさせるとは、大した人なのね。ここだけの話、奏ちゃんより経営向きだった菜摘ちゃんが陥落したんだから、彼はきっとすごく仕事も出来て、恋人としては激甘なのね」
「その通りです」
緑ちゃんが笑い出した。
「幸せで何よりだよ。結婚を見据えて付き合うなら同棲だって悪いことじゃないと思うけどね。私はそのあたりが幼馴染だからすっとんじゃって結婚決めてから早いのなんのって……同棲はうらやましいくらいだよ」
確かに、お兄ちゃんは長すぎる春を実らせてあっという間に結婚して子供も作ってしまった。緑ちゃんへの溺愛と束縛は、彼に負けていない。
「また緑ちゃんに子供が生まれるから、お父さんは今度こそ私のことなんて二の次になると思う。今日だってあっちに連れて行っていて店は母任せ。今がチャンスかもしれないと思って……」
「確かにね。まあ、任せて。奏ちゃんも義父さんのことも私がなんとかするから心配しないで家を出ていいよ」
「ありがとう、緑ちゃん」