彼は『溺愛』という鎖に繋いだ彼女を公私ともに囲い込む【episode.1】
その結果とうとう春から秘書室勤務となってしまった。
業務部の大好きな仕事を続けたいと言った私に、彼はこう言った。
「これからも、業務部の担当役員でいるからさ、君の仕事はいずれ何らかの形で戻れるように努力するよ」
いつもの取引先へのはったりの時に使う笑顔だった。結局あれから秘書室勤務になり、ほぼ私自身の業務部とのかかわりは消えた。
正直、秘書だけなんてつまんない……。今日もスケジューラーを見ながらため息をついていたら、彼が横に来て急に自分のほうへ引き寄せた。
「また、余計なこと考えているだろ?会社で恋人だと公言できないうちは、絶対俺の目の届くところでしか仕事させないからな、菜摘」
役員室は、ノックすれば誰でも入れるのに、あっという間に顎を捕まれてキスされた。
びっくりして胸を押し返すと「また今夜な」とつぶやいて解放された。私がぼーっとしている間に席で電話を始めている。
最近は週末以外にも彼の部屋に連れ込まれることも増え、身体も彼のとりこになりつつあった。
つまり、恋人として慣れてきたというべきだろうけれど、秘書だけというこの仕事だけはいまだに慣れない。
認めたくない自分がどこかにいて、それを見抜かれているのだ。