私は君と、幸せになりたい。

一話

「……ここが、星彩学園なの……」



地元から電車とバスに揺られること、3時間と少し。

私の視界いっぱいに広がるのは、迫力のある大きな山。



こんな山に、学校があるなんてありえない。しかも、あの星彩学園が。



「やっぱり、帰ろう……」



くるりと回れ右をし、帰ろうとした時。

後ろから声がした。



「お待ち下さい。貴方は入学式に出席する、桐谷羽由(きりたにはゆ)様で間違いないですか?」



フルネームを知っているということは、学園の関係者だったりするのだろうか。


だけど、その割には声が幼いような気もするけど……?



若干の疑問を抱えながら、振り向く。




そこには、私と同い年くらいの男の子が、紙をはさむバインダーを持って、立っていた。




「あの……どちら様ですか?」




少しつっけんどんな気もするが、まぁ大丈夫だろう。

彼は、手にしているバインダーに、何かを書き込みながら、手招きした。




「こちらの山を登った先が、星彩学園となっております。
僕は、相瀬祈里(あいせいのり)と申します。さぁ、学園まで案内します」

「えっ、こんな山奥にあるんですか?」

「そうです。自然がたくさんで、気持ちがいいですよ」



そう言って、相瀬さんは、優しく微笑む。


思わず胸が高鳴る。




同級生だったら、仲良くなりたい。だって、こんな顔が綺麗な子、他にいないし。



しかし、同級生ではないことは、明らかだった。スーツを着ているから。

星彩学園の制服は、私が今着ているブレザー。


チェック柄のスカートが可愛い。



「あの、相瀬さんって……学園の、生徒ですか?」




山を登りながら、前を歩く相瀬さんにそう聞いた。


一瞬だけ、彼の動きが止まった。




「……生徒ではありません。僕の正体も、学園に着けばわかりますよ」

「そうなんですか……」



が、学園に着いたらって……。

この山、登るのにすっごく時間かかる気がするんだけどな……。


だけれど、この山を登らなければ学園にも着かない。



運動神経皆無の私は、腹をくくって、頑張ることにした。




〇〇〇



山を登ること、15分。



「はい、着きましたよ。ここで受付を済ませ、あちらのホールへ向かってください」



目の前には、白いレンガ造りの大きな校舎_美星学園が、建っていた。


まるでお城の様な三角形の屋根、重厚感のあるワインレッド色の扉。



綺麗……!



私は、一瞬にしてこの学園の虜にされた。



「えーと、受付だっけ。受付……」



気づけば相瀬さんはいなくなっており、私だけが取り残された。


受付はどこだ、と辺りを見渡すと、列をなしているところがあった。



「あの、受付ってここですか?」



列の最後尾にいた、親切そうな女の子に問いかけてみる。



「うん、あってるよ!私、咲坂胡桃(さきさかくるみ)っていうの。今まで誰とも話す勇気なくて……。
話しかけてきてくれて嬉しい!」



その子_胡桃ちゃんは、鈴の鳴るような可愛らしい声でにこにこと笑っている。


びっしりと生えたまつ毛が、胡桃ちゃんの頬に影を作る。



め、女神だ……!可愛い……!



「あ、ありがとう。私、桐谷羽由です、よろしくね」

「羽由ちゃんっていうんだー!同じクラスになれるといいね!」



一つ一つが完璧に配置された、顔のパーツ。

性格も良いし、なんだかお嬢様みたいな雰囲気もある。


なんでこんな子が、星彩学園に来るんだろう……。



星彩学園は、"幸せになるための学校"なのに。



既に幸せそうな胡桃ちゃんが来ても、意味はないと思うんだけどな。

あ、そういえば……と、胡桃ちゃんは私に顔を近づける。



「ねぇねぇ、もう"執事の子"とは会った?」

「えっと、執事って……」

「執事制度のことは、知ってるでしょ。連れてきてくれた男の子が、そうなんだって。
私の担当の子、すっごくイケメンだった~!」



"執事制度"。それは、この星彩学園にしかない制度。

入学すると同時に、同い年の執事を一人与えられ、身の回りのことなどをしてもらう。


まるでお嬢様になったような気分になれるのだ。



入学説明のパンフレットを少しかじっただけだから、良く分からないんだけど。


胡桃ちゃんはなんとなく、執事制度のために来たのかな? って思うけど、私は違う。



この学園は、私立のくせに学費が一切ないのだ。

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