一匹狼が番犬になるまで。

ドリンクバーの前に立つと、自分のコップに烏龍茶を入れた。
入れ終わった後、有紗の分のメロンソーダを入れようとボタンを押したが、なぜか一滴もメロンソーダが注がれることはない。

「品切れかな…」


代わりにコーラでも入れて帰ろうか。
そう思いながらコップを手に持つと、後ろから声をかけられる。

「朝比奈さん!」

立っていたのは、クラスの男子の吉岡くんだった。
私と同じくドリンクバーを取りに来たのかと思ったが、手にコップはなく、代わりにスマホがあった。


「友達の分も入れてあげてんの?偉いねー」
「自分のついでだから」
「そっか、てかさ、ライン交換しない?」

吉岡くんがスマホを取り出しながら言った。
人懐っこそうな笑顔を見せる。

「いいよ、私今スマホないから、クラスのグループラインから友達登録してもらっていい?」
「おっけー、クラスのグループ40人くらいいるからどれが誰かわかんないんだよね。
アイコン教えてもらっていい?」

吉岡くんがスマホの画面を見せてきたので、そこから自分のアイコンを探し出す。
吉岡くんも画面を同じように覗き込むため、自然と距離が近くなった。

「あ、これこれ、猫の写真のやつ」
「おっけー、登録しとくわ」

そのまま友達登録をして、「じゃあ」といって別れようと思ったが、吉岡くんは距離が近いまま話を続けた。

「朝比奈さんって彼氏いるの?」
「え?いないよ」
「まじ?かわいいのに?」

吉岡くんがさらに距離を詰める。

「じゃあさ、今度俺とふたりで遊ばない?」
「えっ」
「おれ朝比奈さんのこと前から可愛いなって思ってたんだよね!ね、いいでしょ?」

突然の誘いにたじろぐ。
吉岡くんは、ちょっとチャラそうな感じが少し苦手ではあるけれど、別に嫌いと言うほどではない。
そもそもまだあまり話をしたことがないし、せっかく誘ってくれたのを無下にするのも申し訳ない気がする。

かといって、好きでもない男子とふたりきりで出かけるのは、彼氏がいたことのない私には少しハードルが高すぎる。
乗り気になれないのは確かだ。

断ろうかどうしようか迷ってモゴモゴしているうちに、吉岡くんはどんどん場所や日程などの話を進めていく。

焦って止めようとするが、どう断ればいいかもわからずおろおろしてると、後ろから不機嫌そうな声が聞こえた。


「すんません、そこどいてくれます?」

そこにいたのは、カラオケ店の制服を着た帯島くんだった。


< 8 / 10 >

この作品をシェア

pagetop