一匹狼が番犬になるまで。
黒のシャツにグレーの腰までのエプロンをつけた帯島くんは、普段の学ラン姿より少し大人びて見える。
突然現れた帯島くんに吉岡くんは動揺し、そのまま私から少し離れた。
「じゃあ、朝比奈さん、また連絡するから!」
そう言って部屋に戻っていく。
帯島くんはそれを横目に見ながら、ドリンクバーの空になったメロンソーダを補充していく。
「…自分じゃ嫌のひとつも言えないか」
「え?」
不機嫌そうな顔の帯島くんがぼそりと呟いた。
「自分が言いにくいことは察してアピールで相手に言わせていい子ちゃん演じて、八方美人だかなんだか知らねえけどな、そのやり方が誰にでも通用すると思うなよ」
その言葉に何も言えなくなった。
図星だったからだ。
一言嫌と言えばいいのに、それを言って相手がどう思うのか怖くて、自分ではなかなか決定的なことが言えない。だから言葉にはせず態度だけで相手に察してもらおうとしたり、のらりくらりかわそうとしたりする。
「…たしかに帯島くんの言う通りだね。
私、相手がどう思うか怖くてなかなかはっきり伝えられないこと、たくさんあるや。
…でもね」