俺様弁護士は激愛を貫きとおす
 そういえば、つい逃げてしまって代金も払っていなかったことを思い出した。
「あ、ホテル代? ごめんなさい、払うわ」

「そうじゃない。吉野、俺を突き飛ばしただろう? あれは立派な暴行だからな。なあ? もしも俺が訴えるって言ったらどうする?」
「ぼぼ、暴行っ!?」

 思いもかけない言葉が出てきて優羽は焦る。
 確かに突き飛ばしたことには間違いはなかったし、暴行だと言われればその通りだ。

「あの……でも私……」
 優羽がいる総務部では退職に関わる業務を手伝うこともある。
 実際に決定するのは人事だが、実務を行うのは総務部なのだ。

 昨日までいた人が居なくなって片付けをする、もの悲しい気持ちが一気に優羽の中によみがえって、ついリアルに想像してしまう。
 優羽が居なくなったデスクを誰かが片付ける。
 それは妙にリアルに、優羽には想像できてしまうものだった。

 確かに訴訟案件に関わったとなり、しかも加害者ともなれば、会社としてなんらかの処分が下らないとも限らない。
 一流企業ほどコンプライアンスには厳しい。社会的な立場があるからだ。
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