イケメンエリート、最後の独身
謙人は彼女の後ろ側から自分のスペースへ向かう。そして、彼女の正面に座り、視線をコーヒーを持つ手から彼女へと合わせた。
一瞬、何が起こったか分からなかった。
謙人の前に現れた彼女の姿はピンク色のシャボン玉に覆われている。シャボン玉の薄い膜を通して見える彼女の顔は、やっぱりピンク色に染まっていた。
「…あの、初めまして…
今日から、ここで働く事になった田中萌絵といいます…
年齢は27歳と全然若くはないのですが、こういう仕事は初めてで、なので、色々とご迷惑をおかけすると思いますが、どうぞよろしくお願いします…」
謙人は呼吸を忘れていた。いや、心臓が緊急停止していたのかもしれない。
萌絵の自己紹介が終わった途端、一気に酸素が脳に回り始め、頭がクラクラして真っすぐに立っていられない。
そんな状況なのに、萌絵を見たくてたまらない。
あまりの萌絵の可愛いらしさに、もう一度心臓が止まりそうになる。何が可愛いのかも分からないほどのパニック状態だ。
クレオパトラのように真っすぐに揃った前髪も、真っ白い肌も、ピンク色のフレームの眼鏡も、何もかもが眩しく感じてしまう。
まるで夢を見ているみたいに。