イケメンエリート、最後の独身
「謙人さん、着きましたよ」
謙人がうだうだと眠っている間に、タクシーは萌絵のマンションに着いていた。謙人は慌てて体を起こす。でも、まだ頭痛は残っていて体に力が入らない。
「萌絵ちゃん、悪いんだけど…
萌絵ちゃん家で、コーヒーを一杯飲ませてほしいんだけど…
いいかな?」
これは本心だった。下心なんて何もない。
「は、はい、いいですよ…
コーヒーでよければ」
謙人はホッとする。
「コーヒーを飲んで、頭がすっきりしたら帰るから。
今のままじゃ、後悔だらけの一日になりそうだからさ」
何の後悔なんだ?
謙人の心は完全に弱っている。弱みを見せないという今までのスタンスが萌絵の前では通用しない。
タクシーから降りたら、大粒の雪が舞っていた。
そういえば、今日の天気予報は深夜から雪の予報だった。でも、今の謙人にはこの寒さがちょうどいい。正気を取り戻してくれるから。
ことだまマンションは閑散としていた。いつ見ても寒々しい。これは真夏だってそう見えるはず。
謙人は萌絵と腕を組んで歩いている。そして、とうとう、その謎のマンションに足を踏み入れた。