イケメンエリート、最後の独身
「え? あ…」
スマホを渡された萌絵は一人でパニックになっている。でも、謙人と話したいその一心で、萌絵はその勢いのまま謙人に声をかけた。
「け、謙人さん、あの、私…」
萌絵は何から話せばいいのか、頭がこんがらがって言葉が出てこない。
でも、謙人の息遣いが聞こえると、萌絵のざわついた心が和んでいくのが分かった。
「謙人さんに話したい事がたくさんあります…
謙人さん、私と会ってくれますか?」
萌絵が伝えたい事はそれだけだった。会いたい、顔が見たい、謙人の温もりを感じたい…
「今日の夕方六時に下のエントランスのピアノの前で待ってる。
萌絵ちゃんが、今夜、空いていればの話だけど」
「空いてます…」
萌絵は嬉しさで胸がいっぱいになる。久しぶりに聞いた謙人の声は、いつもと変わらず優しい声だった。
「じゃ、後で」
謙人はそう言って、ホヨンの電話を切った。萌絵はホヨンのスマホだという事に気付くまで数分かかった。それくらい心が興奮していた。