イケメンエリート、最後の独身
萌絵がEOCの慈善事業部に異動すると知った時、謙人は心の底から嬉しかった。
萌絵の人柄や努力、そして素質が認められた人事に、その時は誇らしさでいっぱいだった。
でも、その後にとてつもない大きな喪失感が謙人に襲いかかってきた。
萌絵は謙人の傍からいなくなってしまう。
ということは、もう、完全に諦めなければならない。
車の中に吹き込んでくるひんやりとした風が、謙人の肌を切なくくすぐる。
いつかは萌絵としっかり向き合う日がやってくる。
それが今日なのだ。
謙人はあまり深く考えない事にした。考えたところで、萌絵を目の前にしてしまえば、策略も駆け引きも全て通用しない。
ありのままの自分を信じるしかなかった。
とにかく、無様な姿だけにはならない。以前の自信に満ちあふれた自分を保てるよう神様に祈るしかない。
謙人はいつもよりスピードを上げる。
本心は萌絵に会いたくて仕方がなかった。
早く萌絵の笑顔を見たい。あのピンク色のオーラに包まれたい。萌絵を抱きしめたい。
今、謙人の目に映る青い空と波のない海。穏やかに凪いでいるこの海のように、萌絵と落ち着いて話がしたい。
謙人は軽快なBGMに合わせて、心をオープンにした。
真っ直ぐに続くハイウェイを爽快に走りながら。