イケメンエリート、最後の独身


 謙人は夕方から夜に変わりつつある淡い紫色の世界へと車を走らせた。
 東京の街並みはとても美しい。特にこの夕暮れの時間帯は尚更だ。
 隣に萌絵がいる事で、謙人もピンク色の何かに包み込まれている。その居心地の良さは言葉では言い表されない。
 この世界から抜け出したくない。この世界とは萌絵のいる世界だけれど…

 謙人はBGMにFMラジオを流した。
 いつもは音楽は流さない。一人のドライブにはエンジンの音だけで十分だから。
 萌絵は助手席の窓からずっと外を眺めていた。
 薄紫色の空と高層ビルのまばゆい光は、萌絵の中で素敵な思い出として残るに違いない。
 そして、謙人の行きつけのお店に着く。
 前もって連絡を入れていたので、駐車場にスタッフが出迎えてくれた。

「謙人さん、お久しぶりです」

 そのスタッフは先回りをして助手席のドアをさりげなく開けてくれた。
 萌絵は恐縮したように外へ出てくる。
 東京郊外の高台にあるこの店は、予約が取れないほどの人気だった。東京の夜景が一望できる個室に関しては、半年待ちと言われている。


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