イケメンエリート、最後の独身


 萌絵はまたケラケラと笑った。
 食前酒として嗜んだ赤ワインが、いい感じで気分を良くしてくれているみたいだ。
 謙人もそのワインを一気飲みした。
 謙人の場合、ただ喋り過ぎて喉が渇いてしまっただけ、だけど。
 その後は、楽しい時間が過ぎていった。
 話せば話すほど、謙人は萌絵の事が大好きになる。

「ソフィアには本当に感謝しているんです。こんな私を見つけてくれて」

 食事を終えた二人は窓際に立って、会話を続けた。
 萌絵は謙人にたくさん伝えたい事があったらしい。萌絵の楽しそうな笑顔を見ながら、謙人はずっと耳を傾けた。
 二人はスタッフに呼ばれて正面玄関へ向かった。お酒を飲んでしまった謙人はタクシーで帰るしかなく、そのタクシーがお店に着いたという事だった。

「謙人さん、車はどうするんですか?」

 そんな素朴な質問をしてくる萌絵が本当に可愛くてたまらない。

「あとで、お店の人が会社の方の駐車場に戻してくれる事になってる。
いつもの事だから、大丈夫だよ」

 謙人はずっと萌絵の左手を握っている。握らずにはいられない。楽しいお酒のせいにして自分で自分自身を許している。もう最低な男だ。


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