イケメンエリート、最後の独身


 でも、何となく萌絵が握り返してくれる時がある。
 謙人はそれだけで嬉しかった。

 謙人と萌絵を乗せたタクシーはことだまマンションへ向かっている。
 謙人はことだまマンションへ行く事にためらいがあった。やはり窓を開けると墓だらけというシチュエーションは異常だ。気味が悪いし、正直怖い。

「萌絵ちゃん、よかったらの話なんだけど」

「はい?」

 謙人は窓の外の景色を見ながら、さりげなく萌絵の手を握る。いや、散々握っているのだが…

「俺の東京のマンションに移って来ないかなと思って。
 俺自身は、今は、鎌倉を拠点としてるから、東京のマンションは空き家状態なんだ。
 ドイツへ発つしばらくの間、そこを使わないかな、なんて思って」

 そのマンションは環境的にも衛生的にも、ことだまマンションよりははるかにいい。
 でも、萌絵はその謙人の申し出に少しだけ顔をしかめた。


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